歯並びとかみ合わせの加齢変化
矯正治療をした人もしていない人も、歯並びは時間と共に変化し続けています。「昔はきれいな歯並びだったのに、だんだんと悪くなってきて・・・」と感じるている方はいるのではないでしょうか。今回は加齢と共にどのように歯並びが変化していくかについて説明していきます。
目次
加齢と共に何が起きているか?
人は歳を重ねていくと、歯周病になっていなくても歯のまわりにある歯茎の組織は弱くなっていきます。特にアジア人は欧米人と比べて人種的に歯茎が薄く簡単に喪失しやすいため、年齢と共に歯茎が痩せていきやすいと言えます。
https://www.researchgate.net/publication/6753752_Periodontal_diseases_in_Asians
歯肉が痩せていくと、口の中で歯の見える面積が増えていく事で審美的に悪くなるだけでなく、その下のあご骨である歯槽骨(しそうこつ)も萎縮していきます。ある程度進むと、今度は歯自体も動きやすい状態になっていきます。さらに歯を内外から支えている粘膜や筋肉組織のバランスも変わってきます。こうして、歯を支える土台が成人以降に年々減少し、外圧も変化していく事で歯並びやかみ合わせが変化していくのです。
ですが、年齢による歯並びの変化はゆっくりと起きているため、ふつうは気がつきません。すでに一定量の歯が動いた後にふと鏡を見た瞬間、自分の歯並びが悪くなっている事に気がつくのです。
加齢と共にどのように変化するか?
年齢と共に「前歯の歯並び→かみ合わせ」という順序で悪くなる事が多いようです。特に歯並びが目に見えて悪くなる最初のサインは下の前歯のデコボコの発生です。
歯並びが狭くなっていく
歯というのは、唇や頬粘膜からの外圧と舌からの内圧の間でバランスの取れた部位にとどまる傾向にあります。これが年齢と共に口のまわりと舌の筋力が落ちてくるとバランスが崩れてしまい徐々に歯並びの横幅が狭くなっていきます。
歯並びが細くなると最初に1番小さい歯である下の前歯に段差が生まれてきます。日常会話時も口角もあがりづらくなってくると、下の前歯が以前より見えやすくなるため、より目立ってきます。
<下の歯並びの加齢変化>
続いて今度は上の歯並びが狭くなりV字型になっていく事と奥歯が前方に倒れてくる事により、前歯が出っ歯傾向になってきます。前歯が前に傾斜していくため「すきっ歯」になる事もあります。
かみ合わせが悪くなる
年齢と共にかみ合わせも変化していきます。あご骨が華奢でお顔が面長の方(ハイアングル)と、あご骨がしっかりしておりお顔が幅広の方(ローアングル)で変化が異なります。
面長の方(ハイアングル)の場合
面長の方は、あごの奥行きと横幅が狭く、もともと咬む力が弱い傾向にあります。そのため年齢と共にに歯列が前方に倒れてくると、かみ合わせが変化していきます。奥歯しか、かみ合わせが当たらなくなり、少しかみ合わせが高くなっていくことで「口が閉じづらくなった」と感じるようになってきます。状況がもっと悪化していくと、下あごは後方に回転した状態になっていく事に加え、顎関節症や低位舌などの舌癖の影響で、最終的に前歯が上下に開いていき「開咬(オープンバイト)」になっていく事があります。
<面長の方の歯並びの加齢変化>
幅広の方(ローアングル)の場合
幅広の方はあご骨の奥行きと横幅が広く咬む力が強い傾向にあります。奥歯のかみ合わせは咬む力によりしっかり支えられているため加齢とともに割と変化はありません。しかし、歯ぎしりや食いしばりにより歯が摩耗していくという特徴があります。奥歯の高さが低くなっていくとかみ合わせは低くなっていきます。そうするとより噛み締める状態になり下あごは前方に回転していきます。最終的には下の前歯が上の前歯の根元を前上方に突き上げが始まり、出っ歯傾向や過蓋咬合が助長されていきます。
<幅広の方の歯並びの加齢変化>
予防する方法はないのか?
矯正治療を受けた患者さんであれば、リテーナーを使用する事で歯並びの加齢変化を食い止める事ができます。ですが、歯並びの維持ためにこれを一生使用していくのかというと、現実的ではないところもあります。
そうすると自宅での習慣的な歯磨きや歯科医院でのクリーニングを受け、加齢よる歯茎や歯槽骨の劣化を少しでも抑えていくという方法が良いかと思います。当然、歯科治療の途中中断や歯周病の長期放置は、歯茎とあご骨を一気に廃用性萎縮させてしまいます。歯並びの予防の前に、まずは普通の歯科医院での定期ケアが大切という事です。
矯正治療はどのタイミングで考えるか?
加齢によって崩れていってしまった歯並び・かみ合わせを元に戻したい場合は、矯正治療を考えていく形になります。ですが、どのタイミングで行うかの判断は非常に難しいところです。ミドルエイジ以降で矯正治療を始める場合は以下の内容に注意していく必要があります。
現在ある歯は健康か?
基本的には歯の一般歯科治療はある程度完了し、安定期の状態にしておかなくてはなりません。矯正治療行うと、多少なりとも歯と歯茎にダメージが加わります。ですから、歯並びとかみ合わせを治すメリットが、このデメリットを上回らなくてはなりません。また、被せ物やブリッジ、インプラントがある場合は、矯正治療を行う事で、その寿命を短くしてしまう事や作り替えが必要になってしまう事もあるため注意が必要になります。
その他に全身疾患で療養中の場合は、矯正治療がストレスになったり、入院などで中断になってしまう事もあるため、ある程度身体が健康である必要もあります。
<矯正をするためには健康な歯である必要がある>
歯並びのみ治すか?かみ合わせも治すか?
前述のように加齢現象では歯並び、かみ合わせという順で崩れてきます。そこで前歯の審美的な歯並びのみ治すか、全体の噛み合わせまで治すかで大きく方針が異なります。審美的な部分のみ場合は、部分矯正治療で負担が少なく簡単に治す事ができます。
一方、かみ合わせまで崩れている場合は2年以上の全体の矯正治療になります。既に歯の数が減っている場合や治療歯が多い場合は、無理に100%を目指さず、ある程度妥協した個々の環境に合わせたゴールを目指す事もあります。場合によっては、矯正治療ではなく、補綴治療によってかみ合わせを改善を勧める事もあります。